「箸中の家コンサート」のこと
奈良県桜井市の箸中にある民家で、初コンサートが開催されました。
今回は試験的ということで口承伝達のみのイベントだったにも関わらず、最終的になんと100人近い参加者が集まりました。
お天気にも恵まれた本番はもちろんのこと、そのプロセスが大変に充実感のあるもので、これから音楽(特に生演奏)はどうやって人とつながっていくのかという点から、とても興味深く感じましたので、企画から関わらせてもらった1ミュージシャンの立場から記録しておきたいと思います。
ことの始まりはこの家を設計したのが私の従姉夫婦で、今年のGWにゴロゴロしていたところを、予告もなく福岡から車でやってきた彼らに半ば巻き込まれるようにして、数時間後にはお泊まり用バッグを下げた私がこの家の前にいて、小さな子供を含むご家族と、ほかにもわらわらと初めて会う魅力的な人や犬がいて、なんやかや美味しいものなど供され、共に一晩を過ごしたことでした。
1年前に建てられたこの家は、家主(Nさん)が「神様の山に見守られている」と表現される通り、のどかなだけではない、歴史的なもの、なにや神聖な気配の漂う、時の流れまでが都市のそれとは違って感じられる土地にあります。
「この空間を何らかの形で、家族以外の人たちとも分かち合いたい」というNさんの想いに強い感銘を受け、音楽の手伝いが必要ならぜひ関わりたいと、申し出ました。
頭に浮かぶままギタリストの市尾優作氏とトランペットの有本羅人氏に声をかけました。また食にも大変な興味をお持ちのNさんに、私のいちおし料理人;苦楽園口へちま店主もんちゃんを紹介しました。
いずれも、すべてが整った状態ではないところからスタートして、作っていくことを楽しめるメンバーだと確信していました。
こうして「食と音楽」の小さな宴を開催することが決まり、準備が始まりました。
Nさんはフットワークは軽いし、連絡もツーツーで、コミュニケーションがとても上手。これは何か企画を進める時には本当に大切なことだと思いました。
我が家にもしゅっと来られて、もんちゃんと食について打ち合わせ。
民家での初めての試みなので、音楽面では音響やセッティング(まずはアップライトピアノを母屋から移動)、ご近所騒音チェック、料理のほうも材料を調達する市場や厨房の様子見などのため、事前にみんなで伺いました。
子供がすっかりなついて、作業より遊びに没頭するメンバーもおりました。
その帰りみち、道を迷うようにして入ったレストランが、まるで宮崎アニメのよう。ハレの夜。珍客は地元の花火大会の特等席に丁寧に案内され、迫力の火花を仰いだのでした。
私の中で、「どうも狐につままれてる感」がどんどん強まっていました。
本当に綺麗だった。なぜかちょっと泣けました。
本番は、前日から泊まり込んで、仕込み&リハーサル。
雨と出ていた天気予報が、ちょっとずつ好転。
重たいピアノも、みんなで力を合わせて屋内外に何度も移動させ、角度等を変えてサウンドチェック。
今回、声とギター以外はアコースティックでしたが、拡声しすぎない自然なサウンドになっていたと思います。
ある聴衆が、虫の鳴き声と渾然一体になってたと言ってくれたのは、まさにそれ!
一方、50人の予定が70人の予約になったビュッフェ担当のもんちゃんは、静かにしかし青く燃えていて、下手に話しかけることは許されない雰囲気です。しかしそのプロっぷりは滅法格好良くて、その姿を肴に、私はNさん夫妻やご両親がふるまってくれたバーベキューの残り火を囲んで、この家の施工にあたった大工さんYちゃんらと共に、永遠にここで飲んでられたらと至福の夜更かしをしました。
予定外に市尾くんの奥さんでもあるピアニストの西田衣利子さんがゲスト参加してくれることになり、音楽班はぐっと力を増しました。あらゆる世代が集まるこの宴を楽しんでもらえるよう、一緒に知恵を絞ってくれて、そのひとつとしてスウェーデンの夏を讃える賛美歌を、衣利子さんにリードしてもらい4声アカペラで歌うことにしました(スウェーデン語で、です!)。
多少下手でも、楽器奏者が声を合わせるってなんか素敵なんじゃない?と思ったのですが、実際にはなかなか難しく、、、聴いた人がどう思ったかは、闇に飛んで消えた今となっては不明です。
午後16時ごろから、願ったり叶ったりのお天気のもと、人が集まり始め、その中には従姉夫婦の姿もありました。
殆どの方が知り合いなので、母屋の居住エリアにも人が溢れて寛いでいます。
さすがに短時間での最終盛り付けは、もん料理長より手伝い指示発令!
奥様のN子さんは、器に相当凝った時期があったそうで、素敵なのがいくらでもありました。もんちゃんの腕も引き立ちます。
好きでとことんやったことは、どこかで繋がるものだ!
Nさんがアナウンスなどしてコンサート開始。
明るかった庭も徐々に暮れ、夜が始まりかけたころ、一時間ほどのコンサートが終了し、その約10分後に雨が降り出しました。
山の神様よ、ありがとう!!
昨年の冬以降、ライブをお休みしている私ですが、今回の企画では自然と体が動き出しました。
生の音楽を待っていてくれる人たちがいて、そこにとびきり美味しい食べ物を用意して、お年寄りも子供も寄ってくる自然の中でのコンサート。立ち止まっていた私に、一体誰からのプレゼントだったのか、さすがに狐の仕業ではなかろうと今は思えます。
音楽家として、演奏だけでなく、コンサートそのものをチームとともに作るのは、仕事は増えるものの、とてもやりがいを感じます。
思い起こせば、数年前からこれにはまりつつあったのです。
アーティストは音楽の中身にひたすら邁進するべき、というのはひとつの正論ですが、社会を見渡した時、そうは言ってられないからかもしれません。
頑張り過ぎず(ここ重要!笑)、続けていきたいと思います。
このたび、こんなチャンスをくださった箸中の家は、今後いろいろな試みをされるとのこと、これからも応援していきます。