2012-13年に家族で住んで以来、すっかりその魅力に取り憑かれ、ほぼ毎年のように単身で訪れてきたスウェーデン。
7度目となる今年2023年は少し長い滞在(52日間)で、音楽制作・演奏活動のほかに、かねてからの興味であるスウェーデンの教育事情について、特に「生涯学習(life-long education)」と「音楽・即興」を切り口に、知見を深めたいと考えています。
まずは、8月初旬に受けた5日間の夏季コースについて。まだよくわかってないことも多いのですが、忘れないうちにざっと記録したいと思います。
*以下、今後加筆、修正などなどする可能性があります
【Folkhögskolaという学校】
Folkhögskola(フォルクへグスコーラ)は高校とも大学とも違うとてもユニークな教育機関
一般的には高校を卒業後、大学への準備や、より専門的な知識を得ることを目的に、若い世代が通うことが多いと思われるが、私の受けた夏季短期コースのようにあらゆる世代にとっての生涯学習的な側面も持っている
https://www.folkhogskola.nu *リンクには基本的に英語版があります
【発端と基本理念など】
・Folkhögskolaは、産業革命を経たスウェーデンで、今後の社会には知識や教育が必須であるという民衆自身の要求の中から生まれた
したがって「folkbildning =すべての国民が自由で独立した個人であり、民主主義社会のあらゆる側面に参加する権利を持っている」という哲学理念のもとに教育活動が実践されている
・スウェーデン初のFolkhögskolaは1868 年に設立され、現在では国内に 150 以上の学校が存在する
・それぞれが独立した存在であり、運営方針、得意分野などが異なっている
・全Folkhögskolaの 3 分の 2 以上はNGO等の組織や協会によって運営されており、残りは国や自治体によって運営されている
【私が受けた夏季コースについて】

⚫︎学校 Fridhems Folkhögskola https://fridhemsfolkhogskola.se
南スウェーデンのSvalövという小さな街にあるが人気の学校。一般コースには250名が在学している。夏期講習にも、演劇、絵画、フィルム、音楽、クリエイティブライティングなど、かなりの数のコースが開設されており、人気の高いものはキャンセル待ち。私も一度キャンセル待ちとなり、クラスメートの中にはリピーターも数名。
https://www.folkhogskola.nu/sok-kurser/?query=fridhems+folkh%C3%B6gskola&type=deltid
今年は150周年ということで、スタッフはお揃いのTシャツを着たり代々の校長先生の写真が飾られるなど盛り上がっていた。スタッフはみんな生き生きとした印象で、レセプションの人もすごく親切だった。宿舎は清潔で食事も美味、ビュッフェには必ずベジタリアン対応あり。連日の雨で初日のオリエンテーションは中庭でなく食堂で行われた。

⚫︎コースのテーマ「Vi gör en musikal!(即興でミュージカルを作ろう)」。
昨年初めて開講され好評につき継続。1日約7時間、5日間のコースの中で、体や声のウォーミングアップに始まり、言葉や体を使ったゲームからの、いきなり即興でメロディと歌詞をつけて踊るという、かなりハイレベルかつ度胸の要る内容だった。普段はストックホルムで教鞭を取るゴレーゴル先生の音楽(即興のピアノ音楽)と導きが本当に素晴らしかった。中にはグレーゴル先生のコースを何度も受けている人も。参加者は質問にも非常に積極的で、先生の説明中も常に誰かが手をあげている状態。みんな冗談が大好きで笑いが常に溢れていた。
https://www.folkhogskola.nu/sok-skolor/Skane-lan/Fridhems-folkhogskola/Kurser/2023ht/vi-gor-en-musikal/


⚫︎クラスのメンバー
たぶん20歳ー70代?と思われる16人。こうした夏季コース経験者がほとんどで、うち数名は昨年初めて開設されたこのコースを受けていた。授業は全てスウェーデン語。スウェーデン語が理解できなかったのは私だけで、あるクラスメートによれば「これまでそんな人は見たことない」。だいぶトンチンカンな参加者でしたが、クラスメートと先生の助けのおかげで、数々の手法、進め方などの大枠と、雰囲気を実際に味わえたのはよかったです。即興やりとりの中のジョークの数々が理解できなかったのは心底悔しいですが、ローカルなネタを超早口で言ってるわけで、これは相当なハイレベルなのでした。
⚫︎最終日前夜の発表
4日目の夕方には、各コースが作品や成果を発表。私たちは観客を前に即興ミュージカルを披露。即興劇、絵画、フィルム作品などの展示も。

⚫︎費用
授業料は年齢・国籍を問わず無料。5日間(前日からの泊まり込みOK)の宿泊費、1日3食+2回のFIKA(スウェーデンになくてはならないお茶タイム)が6900クローネ(約9万円、各種割引あり)。クラスメートに訊いたところでは妥当な金額だけど、これより高いとちょっと考えるわねという人が多かった。ギリギリ?

⚫︎感想
教育面;参加者がとても積極的で先生は教えるというより、リードするというスタイルだったことをあるスウェーデン人に話した時「昔は空っぽのボールを満たすのが教育と思われた時期もあったんだよ」。とても印象的な言葉でした。
「民主的」とは何か、この歳にして私には確信がないのですが、これがそういうことなのでは?とFolkhögskolaの説明の最初に書いてる哲学を読み返しつつ、思っています。
音楽面;即興ミュージカルの中で音楽の果たす役割はとてつもなく重要。グレーゴル先生の音楽は常に素晴らしかったが、ハッとするような音が流れた時は、みんなの動きや発想に魔法がかかったみたいになったのだった!これは音楽家としては嬉しくも背筋の伸びるようなことだった。
社会面;inclusive(日本語では「包摂」と訳されています)ってこういうことなのかと感じさせられました。スウェーデン語のわからない私を、特別扱いするのではなく自然に受け入れ、声をかけられたり、困ってそうに見えたらさりげなく手を差し伸べてくれる。そんな感じでした。